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【インタビュー】沖縄の怪談と「ユタ」を追う作家・小原たけし氏に聞く。花粉症から始まった琉球ミステリー探訪記

沖縄の風土に根差した「怖い話」や、神秘的な存在「ユタ」。その知られざる世界を追い求め、数々の著作を発表してきた作家・小原たけし氏。19歳で体験した「ゆた」の予言、そして沖縄の怪異を収集する日々と今後の展望について、NPO法人Mirai Kanaiのラジオ番組「ミラクルモンスター」の収録現場で話を伺った。

ゲスト:小原たけし(こはら・たけし) 作家。沖縄の怪談や伝承、風習に関する著作を多数執筆。『琉球怪談』シリーズや、テレビ番組「琉球トラウマナイト」の原案・コーディネーターなども手掛ける。
https://www.instagram.com/takeshi_kohara

「作家」という肩書きと、沖縄怪談への入り口

イ: 本日はお越しいただきありがとうございます。小原さんは20冊以上の本を書かれている作家でいらっしゃいますが、改めて主な活動内容を教えていただけますか?

小原: はい、小原たけしと申します。一応、作家をしておりまして、沖縄の怖い話ですとか、あとは「琉球トラウマナイト」のような番組のコーディネーターや原案を書いています。沖縄の怪談や子供向けの怪談も出版しています。

イ: 実は私、小原さんとは10年以上のお付き合いですが、今日初めて「作家」というご職業だと認識しました(笑)。てっきり妖怪の研究をしている方かと…。

小原: (笑)。

イ: そんな小原さんですが、子供の頃からやはり怖い話がお好きだったのですか?

小原: そうですね、怖い話は好きでした。水木しげる先生の本や、民俗学の人が書いた妖怪紹介の本なんかは必死になって読んでいましたね。ただ、それを仕事にしようとは思っていませんでした。

沖縄との運命的な出会い ―きっかけは「花粉症」

イ: 現在の沖縄を拠点とした活動に至る、決定的なターニングポイントは何だったのでしょうか?

小原: これはね、やっぱり中学の時に花粉症になったんですよ。京都にいたんですが、花粉がひどくて。昔は今みたいに良い薬もなかったですし。そんな時、京都新聞の夕刊で「沖縄には花粉がない」という記事を見つけて、「これだ!」と。19歳の時に初めて沖縄に来たのが、最初のきっかけです。

イ: 花粉症がきっかけだったとは驚きです!

小原: ええ。それから沖縄にハマってしまって、沖縄以外では生活できなくなりました。花粉がないから(笑)。

宮古島での衝撃体験 ―「ユタ」の予言と「かみおろし」

イ: 沖縄に移住されてから、特に印象的な出来事はありましたか?

小原: 一旦京都に帰ったんですが、また沖縄に戻ってきて、宮古島でお世話になっていた時期があるんです。そこで「ユタ」の友達に、「お世話になったおばあがいるから、一度見てもらったら?」と勧められて、ある「ユタ」のおばあさんを訪ねました。

イ: それが大きな経験になったのですね。

小原: ええ、それが不思議でね。そのおばあさんは日本語(標準語)が話せなくて、お孫さんが通訳してくれたんですが、その時に「あなたはまた沖縄に帰ってくる」「神様とか沖縄のことを色々と本格的に調べて本書くよ」と言われたんです。当時19歳でしたから、「めんどくさいな」と鼻で笑ったんですけど、今まさにその仕事をしているわけですから、面白いですよね。

イ: さらに、何か不思議なことが起きたとか?

小原: そうなんです。最後に神様を下ろして、何か紙にアーッと書いたんです。見たら、アダムスキーの金星語みたいな、よく分からない字が書いてあって読めなかったんですが、最初の文字だけ読めた。それが「清なりたかこ」って書いてあったんですよ。私の父の名前は「清しげ」と読むんですが、よく「清なり」と間違えられることがあって、母の名前は「たかこ」なんです。

イ: 事前に何も伝えていないのに、ですか? しかも、よくある間違いまで含めて…。

小原: そうなんです。もう、体が動かなくなりました。「これ何ですか?」って聞いたら、おばあちゃんが笑って「これが“かんかかりやー”だよ」と。何も教えてくれないんですけどね。この体験は強烈でした。

怪談収集の日々 ―「おもろい話」を求めて

イ: その体験が、沖縄の歴史や風習、怪談を調べるきっかけになったのですね。

小原: ええ。京都に戻っても、沖縄に関する資料が当時はほとんどなくて。調査のためにまた沖縄に来て、ストックフォトのカメラマンをしながら、各地を取材して回りました。アルバイトで市町村史の編集を手伝ったこともあります。その聞き取りの中で、おじいさんおばあさんが怪談話をいっぱい持っていることに気づいたんです。

イ: 役所などではあまり取り上げられないような話でしょうか。

小原: そうなんです。役所の人たちは、そういう話を「戦争で神経が麻痺して見た幻覚だろう」とか「載せても意味がない」と言って除外するんですよ。でもね、それがおもろいんですよ。だから、そういう話を個人的に集めるようになりました。

イ: 実際にどのような話があるのですか?

小原: 例えば最近聞いたのは、山を削って古いお墓が出てきて、その一つを開けたら中から黒いランドセルが出てきた、という話です。他の骨壷と一緒に入っていたそうです。山の奥の古いお墓なのに、ランドセルなんておかしいでしょう。また、那覇ではお墓を整理したら中からヤクルトのプラスチック瓶が出てきたことも。いたずらにしては労力がかかりすぎるし、本当に不可解なんです。

沖縄の生活と信仰 ―ヒヌカン、そして取材中の怪異

イ: 沖縄では「ユタ」だけでなく、生活の中に息づく信仰も多いですよね。

小原: ええ。沖縄ってやっぱり「ユタ」とかスピリチュアルなものが庶民の生活と本当に一緒になっているんです。例えば「ヒヌカン(火の神)」は、家庭でみんな拝みます。あれは電話のルーターみたいなもので、僕らが神様に何かお願いをする時の中継地点のようなものだと考えています。だからヒヌカンの前で喧嘩したり悪口を言うと、それが乗って呪いになるかもしれない、と言われていますね。

イ: そういったディープな取材をされていると、ご自身も不思議な体験をされることはありますか?

小原: やっぱり襲われるんですよ、うなされたり。一度、深夜に車で走っていたら、歩道を黒い汚れた犬のようなものが、時速80kmくらい出している私の車より速く走っているんです。スピードを上げたら100kmよりも速くて。よく見ていると、そのままスーッと浮かび上がって消えました。煙の形をした犬が時速100kmで歩道を走っていたんです。あれは怖かったですね。そういう時は、持っているクラシック音楽のCDを大音量でかけて紛らわします(笑)。

イ: 心霊スポットへの同行取材もされるとか。

小原: 東京のテレビ局の取材とかで、ショッキングな映像を撮りたがるので、それを止めるために行きたくないけど行くこともありました。中城高原ホテル跡には10回以上行っています。おうど海岸では、参加者の一人が「ここで戦争は終わりました!」と大声で叫んだ瞬間、水平線から2つの人魂がヒューッと上がって消えたのを、全員で目撃しました。

「人間の念が一番怖い」―そして「ユタ」の教科書

イ: 様々な怪異に触れてこられて、小原さんが一番「怖い」と感じるものは何ですか?

小原: やっぱりね、一番怖いのは人間なんですよ。生霊みたいな感じですね。以前、北部の野球部監督が、憎んでいた親戚のことを思いながら飛んできた火の玉をバットで打ち返したら、その親戚が亡くなったという話を取材しました。後日、その監督から「実はあの時、本当に死ねと思っていたんだ」と打ち明けられて…人間の念の力は計り知れないと感じます。

イ: 今後の展望として、特に力を入れていきたいことはありますか?

小原: 今、「ユタ」さんの本を書いています。これが僕としてはとても面白いものになりそうだなと。そして、実は「ユタ」が参考にした「教科書」のようなものが存在すると言われているんです。沖縄本島の「トキソーシ」や宮古島の「ウルカソウシ」と呼ばれるものです。

イ: 「トキソウシ」とは、さいおんによって焼き払われたという、あの?

小原: そうです。ごく一部が県立博物館に残っていますが、一般には公開されていません。オリジナルは手書きで色彩も施されていて非常に美しい書籍なんですが、どうやって読むのかもまだよく分かっていない。これらの「トキソウシ」や「ウルカソウシ」のようなものを、もう少し世に出していきたい。これが今の大きな目標ですね。誰が知っているかも、本当にあるのかどうかも、まだ分からないことだらけですが。

イ: まさに壮大な目標ですね。小原さんのお話は、見えない世界を見える化してくれているように感じます。沖縄の文化を、妖怪の側から、あるいはスピリチュアルな側面から光を当てる活動は非常に貴重だと思います。

小原: ありがとうございます。怖い話も面白いので取材は続けますが、やはり「ユタ」さんとか、そういった存在が特に面白いなと思っています。



小原たけし氏の探求は、沖縄の奥深い歴史と文化、そして人々の精神世界へと続いていく。そのユニークな視点から紡ぎ出される物語に、これからも目が離せない。

(NPO法人Mirai Kanai提供「ミラクルモンスター」におけるインタビューを再構成)


イベント告知

5/24(土)怪奇万象(沖縄)

初めて沖縄で怪談会やります!!

怪奇現象にもさまざまの形・あらゆる物があります。
怖い話や不思議な話、妖怪や地域にまつわる伝承
さまざまな奇々怪々な話を語り合うイベント。

【出演者】
小原猛
ウエダコウジ

開場 17:30
開演 18:00
終演 20:00

【会場】
壺屋演劇場 かさね
沖縄県那覇市壺屋2丁目23-26

【チケット】
大人 ¥2,000
小人 ¥500
※高校生以下

https://tiget.net/events/386114

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